おかしいのは私か世界か?賛否両論!『ナミビアの砂漠』感想

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いま大注目の「Z世代映画」!!

 いま邦画で一番の話題作といえば、『ナミビアの砂漠』ではないでしょうか。公開開始は9/6。通常この規模の映画であれば、そろそろ上映回数も寂しくなってくる頃ですが…各劇場まだまだ盛況のようです。私の観た回も客席は7割方埋まっており、いわゆるエンタメではないタイプの邦画としてはなかなか珍しい光景だと思いました。

 SNSでも多くの人がこの映画の感想を投稿していて、しかもその感想は賛否がぱっくり分かれています。「Z世代の退屈な映画」と突き放す人もいれば「現代社会をリアルに切り取った」と絶賛する人も。私個人の感想としては、今年絶対観るべき一本!! でした!

『ナミビアの砂漠』あらすじ

主人公のカナ(河合優実)は人生にこれといった意味を見出せず、なんとなく日々を過ごしている21歳の女性。美容クリニックでバイトをしつつ、毎日の暇をつぶしている。恋人で身の回りの世話をしてくれるホンダ(筧一郎)は優しいけれど一緒にいてもなんとなく虚しい。そんな中、カナは自信家のクリエイター・ハヤシ(金子大地)と徐々に関係を深めていく……

予告の印象とかなりちがう?ふどうの感想(うっすらネタバレあり)

 予告編を貼っておいて恐縮なのですが…私としては「予告の印象とぜんぜんちがうじゃねーか!」というのが最初の感想でした。

 あらすじや予告を見るかぎり「自由で奔放な若い子がやりたい放題する映画だろう」と思うじゃないですか!ところが観進めていくほどその印象は覆されていきます(その第一印象のまま受け取った方も多くいるようですが…)。

 というのは、カナの行動原理やおかしいと思うこと(爆発してしまうこと)の一つ一つにはちゃんと理由があるのです。たとえばカナはハヤシに対してしばしば暴力をふるってしまうのですが、過去にハヤシが女性に対してしたこととカナ自身の経験がリンクしてしまったり、ハヤシのどことなく見下した言動が原因としてあります(もちろん暴力自体は絶対にダメです)。その前の彼氏・ホンダも一見優しく思いやりがあるように見えますが、出張先で風俗に行きそのことをカナに懺悔します。そこには性風俗従事者に対する蔑視も垣間見え、カナは風俗に行ったことよりも、無意識とはいえ当然のように差別する彼の心に愛想を尽かしたようにも見えます。

 この映画はともすれば、若者世代に向けた話に見えると思います。実際宣伝文句や感想を見ていても「Z世代」や「若い人」などが強調されたものが多いです。ところが本質的には、カナが抱える葛藤はこの社会の構造全体に起因したものなのであり、カナが「おかしい」と思うことは、社会を構成するわれわれ全員に投げかけられた疑問なのです。

 物語の中盤からカナは精神状態を崩していきます。しかし序盤から彼女は意識的か無意識か分かりませんが、世界に対する違和感を抱えています。

 それはたとえば最初のカフェでのシーンに象徴的です。カナは呼び出された友人から自殺した元同級生の話を聞きながら、隣の席で「ノーパンしゃぶしゃぶ」の話をする男性たちの声が耳に入ってしまいます(ノーパンしゃぶしゃぶは若者には分からないと思うけど)。誰かが死んだことも猥談もどこかで同時に発生しているということ。それは世界のどこかで戦争が起きていて、同時にどこかでは恋人同士が幸福に生きていることと同じですし、裕福な人と貧しい人が同時に存在することと同じです。

 また前述したように男と女の不公平感や、日本の将来に対する不安など、漠然とではありますが、カナはたくさんの「おかしさ」を感じていて、自分でも知らないうちに心を削られていくのです。

 ですが、この映画が凄いのはそういったことを「社会がおかしい!」と分かりやすく言葉にしてしまうのではなく、「言葉にはできないけどなんとなく気持ち悪い」という感覚をそのまま映画にしていることだと思います。それはカナが突然の側転をしたり走ったり暴力に及んだりといった身体表現や表情、もしくは撮影方法など、言語以外の形で観客につよく訴えかけていきます。

 これらの表現は言語でないからこそ意味があり、映画でなければできないことです。たとえばハヤシのように色々な言葉を使ってなんとなく心情を語ることもできますが、言語化されたことが常に正しく心情を表現しているとは限らないのです。言葉でないからこそ、この映画は多くの人の心に残っていくのではないでしょうか。

全国で絶賛公開中!!

 感想が長くなってしまいました。が、この映画は観た人と語りたくなるタイプの映画です。また、賛否は別として、確実に「現代を切り取った映画」であることは間違いないので、劇場でやっている内にぜひご覧になってください!

 10月から公開の劇場も多いようです。詳しくは公式サイトを参照してください!

映画『ナミビアの砂漠』公式|9月6日(金)公開
第77回カンヌ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞受賞!『あみこ』山中瑶子監督×河合優実、若き才能の夢のタッグが実現!映画『ナミビアの砂漠』公式|9月6日(金)公開

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